「赤と白とロイヤルブルー」感想

「赤と白とロイヤルブルー」感想

原作も読破済でアマゾンオリジナル作品として実写化すると聞いてずっと楽しみにしていた。

アマプラはこちら

 

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原作はなかなかボリュームがあるので、それを1本の映画にするにあたっては、ある程度端折られるだろうとは思っていたが、それでもきれいにまとまっていた。

原作はここ数年の中でもかなり夢中になって読んだ作品の一つ。あまりに楽しくて続きが気になりすぎて昼休憩中に食堂で必死になって読んでいた。

 

ホワイトハウス三人組が好きだったのでアレックスの姉・ジューンが登場しないのが残念だった。その分ジューンの役割はノーラが担っている感じだった。

映像で見るノーラはお人形みたいにとてもキュートでチャーミングで原作以上に好きになった。原作のノーラははしゃいだり騒いだりもするけど、もう少し知的でインテリなイメージが強かった。実写化にあたってセリフやキャラクター性を大きく変えている感じもないし、役者(レイチェル・ヒルソン)の演技と演出によるものだと思う。

 

キャラクターの良さでいうとザハラも。

ヘンリーに対する「(メディアに)撮られたら頭を胴体からブレグジットするぞ」みたいなセリフ(字幕版)とかウィットに富んだ悪口と勢いが良かった。

メールが流出した後の深刻なはずのシーンもザハラのノリとアレックスの「ヘンリーは思い詰めると眉をしかめるのがめっちゃかわいい」とかいう惚気で割りと軽く流れていった感がある。

 

ポロの試合の後にロッカールームみたいなところでセックスするシーンも原作では前段として馬にまたがってポロをプレイするヘンリーの身体に欲情するアレックスがいたけど、セックスシーンにポロをプレイしている最中の太ももや尻のぶつかり合いを印象的に挟む演出は映像ならではの演出だなあと思った。

 

別荘でアレックスがハンモックに横たわって読んでいた本がおそらく本作の原作者ケイシー・マクイストンの二作目「明日のあなたも愛してる(原題:One Last Stop)」だった。ヘンリーの読んでいた本が分からなくてググってみたらこちらもアトウッドの「誓願」と共にブッカー賞を受賞したフェミニズム本のようで来月くらいに翻訳本が出版されるらしい。

原作と違う部分はあっても原作の意図を理解して映像化しようとしていることが伝わってきた。

 

今回の実写化には出なかったラファエル・ルナの役割(メール流出とか)をミゲルが担っていた。ラファエルが犯人だったからこそショックが大きい事件だったんだけど、少し前からあくどい奴と分かっていたミゲルが犯人だったので王道というか、勧善懲悪っぽさが出てしまった気もする。

他にもヘンリーの姉のビーが妹に、女王(ヘンリーの祖母)が国王(祖父)になっていたり。ヘンリーの母と女王とのやり取りをカットする分、わかりやすく堅物っぽいキャラクターを求めて国王(高齢男性)へ変更したのかなと思った。

アレックスの母がパワーポイントで性教育するシーンは見たかった…。

 

メールの流出~大統領選を迎えるまでの流れは原作では結構深刻でアレックスもヘンリーもすごく傷ついていて、あのあたりを見るのは辛いなあと構えていたけど、結構あっさりだったので拍子抜けした。

アレックスが堂々と演説していたシーンはとても素晴らしかった。本邦では彼の言う「たまたま好きになった人が男性で…」は都合よく取られてしまうだろうなあと感じたくらいで。

流出事件についてはメディアが初期から明確にヘンリーとアレックスを擁護する立場を取っていたのと、堅物っぽいヘンリーの祖父もゴリゴリの差別意識に基づく行動というより(それもなくはないけど)、国民の差別意識を予見してヘンリーを守るという意識が先立っているように感じたので私自身もダメージが少なかった。

流出したメールを見ているなら僕たちの愛情が深いものだとわかる、というセリフは原作を読んでいる身としては彼らが実在する様々なクィア当事者たちの文章を引用しながら愛を交わしているのを知っているので説得力があるんだけど、映画だけ見た人にはちょっと説得力がたりないのではと感じた。

たぶん引用しているメール文章自体が今回の映画には出なかった。二人の教養の高さとかも感じられて好きだったので残念。

 

全体的にクィアロマンスの趣が強くて政治性やクィアの当事者表象(辛さしんどさのようなもの)はあっさりめだったなあと思う。

でもハッピーエンドのクィアロマンスを安心して楽しめたので良かった。

ハッピーレズビアンロマンス映画も期待したい。