「ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画」感想

太田記念美術館ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画」

先日、東京・帝国劇場まで「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」を見に行ったが、せっかく東京まで行くので美術展に行ってきた。

ミュージカルの感想はこちら

ebimiso-champon.hateblo.jp

ミュージカルの開演が13時、開場は12時ということで朝イチで東京に来たとしても昼には帝劇にいないといけないのであまり自由時間がない。

ということで、東京駅からあまり離れていない場所で且つ、鑑賞時間を短くするためこじんまりとした美術館の展示を見に行くこととし、太田記念美術館の展示となった。

www.ukiyoe-ota-muse.jp

闇雲に太田記念美術館を選んだわけではない。以前パラミタミュージアム川瀬巴水の新版画を見て以来、版画に対する関心が高く、ポスターの時点で日本の浮世絵とは違った色彩センスを感じて一目惚れしたところが大きい。自分自身も毎年年賀状で版画を彫っているのでなおのこと心惹かれる。

川瀬巴水についてはこちらで感想を書いている。

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太田記念美術館について

東京駅から歩いて(途中寄り道しつつ)大手町駅へ向かい、そこから明治神宮前駅へ向かえば乗換なしで行ける。駅の5番出口を出てそのまま大通り沿いに直進し、銀座千疋屋の角を右折するとすぐ。ラフォーレ原宿の裏にこじんまりとある。

開館時間の10分後くらいに到着したが、スライドトークというイベントの日だったようで、平日にもかかわらず列ができていた。

浮世絵好きのお金持ちが私財を投じてつくった美術館らしい。ヤマザキマザック美術館もそんな感じだったような。浮世絵好きらしく、展示室内は枯山水のような小さな庭が作られていたりと和風の趣のあるつくりになっている。

展示室内は撮影不可だったのでせめてポスターなり美術館の外観でも撮影しておけばよかった。

また、展示作品のグッズやポストカードの種類が少なかったのが残念。受付と会計を行う場所もかなり手狭な感じで沢山グッズを並べることも難しそうだった。気に入った作品が複数あったのだが今回のグッズの中にポストカードとして売られておらず残念。

ジャクレーの作品は横浜美術館の常設展示でいくつか見ることができるようだが、現在改装中で2024年にリニューアル予定とのこと。

ポール・ジャクレー展の感想

ポール・ジャクレーの名前はなんとなく聞いたことがあるような?というくらいだった。版画の展示が見られるらしいということでホームページを確認して、色彩鮮やかな版画に目を奪われて来館した次第。

 

ポール・ジャクレーの経歴としては、外国語教師のフランス人の父に連れられて3歳でフランスから来日。以後亡くなるまでは基本的に日本で生活。父親は所謂「お雇い外国人」だったと思われる。

同じくフランス人の母が浮世絵にハマったようで、その影響からか絵を描き始め、父の知り合いの画家から絵を学び、浮世絵の道へ。

師事していたのは琳派の流れを汲む師匠だったらしい。

 

日本での木版画や浮世絵は風景画や美人画など描くモチーフが概ね決められている。ジャクレーの時代は新版画と呼ばれる時期で、版元(木版画製作におけるプロデューサー的立ち位置)の指揮のもと絵師や彫師、摺師が共同して版画を製作するスタイルが一般的。版元が売れる作品をつくるために作品の方向性を決めてしまう。版元が浮世絵の制作総指揮を執るスタイルではジャクレーはその指揮のもと、指定された題材の絵を描くことしかできない。

その当時のジャクレーの作品はたしかに若い女性を描いた作品が多く、筆使いや色使いも一般的な浮世絵の範疇にある。

 

そこから版元を離れ、自分で自分の描きたいものを描くために、自ら彫師や摺師を指揮するスタイルで作品制作を開始したらしい。絵具や紙も上質なものを使い、自分のスタイルを理解している彫師や摺師と自分のペースで満足のいく制作ができるようになり、作品の題材や描き方も大幅に変更している。おそらく実家の太さと支援する人の多さの為せる技。

日本国内よりも南アジアや韓国、ミクロネシア地域等、日本統治下にあったアジア・太平洋地域の国々を度々訪問して長期滞在するなどし、作品制作をおこなっている。

主線をしっかり引く、影をあまりつけない、服のシワの柔らかな線など日本元来の浮世絵らしさはそのままに、ミクロネシア地域の原色に近い鮮やかな色使いは非常に目を引く。

また、空摺りという技法を多用して織柄の入った布などを表現していて、角度を変えて見ると模様が浮き上がって見える。

アジアの伝統衣装の細かい装飾や繊細な部分まで100を超える版木を使って再現していて、個人制作でないとここまでこだわり抜いた作品をつくることはできなかっただろうなと思う。

美人画や歌舞伎役者、風景などモチーフが固定されがちな浮世絵にあってジャクレーの描く老若男女を色鮮やかに描く作品はとても新鮮だった。

 

横浜美術館がリニューアルした際にはぜひジャクレーの作品を見に行ってみたい。